「ズーノーシス(人畜共通感染症)」という言葉をご存知でしょうか。ズーノーシスとは、犬に限らず、猫やうさぎ、鳥といったように「ペット」として飼われる動物はもちろん、人間にも感染する感染症の総称です。今回はズーノーシスについて解説していきます。
ズーノーシス(人畜共通感染症)
昨今のペットブームによって、犬以外にも色々なペットが海を渡ってやってきています。もちろん、国内に入る前には、非常に厳重な検疫が設けられていますが、検疫をくぐり抜け、密輸などによって狂犬病を始めとするウイルスが国内へと運ばれる可能性も、ゼロではありません。
現代社会では、こうした様々な動物をペットとして飼育しているシーンが多いですが、犬の散歩中や、猫が外を徘徊中、何らかの理由で感染し、飼い主にも感染が拡がる恐れがあるもので、感染症の種類も様々な病気が存在し、日本国内では約80種もの病気が確認されています。中には犬には症状が無くとも、人には重篤な症状がある場合や、その逆の場合もあるなど、病気によって症状も様々です。
ズーノーシスの中でも最も危険な感染症である「狂犬病」
狂犬病は、数あるズーノーシスの中でも、最も恐ろしい病気として知られていますが、その死亡率と症状も悲惨なものがあります。致死率も99.9%、狂犬病の発症から死亡に至るまでは、長くて10日、そのほとんどは2日ほどと言われています。
狂犬病は、狂犬病に感染している動物に咬まれることで、ウイルスを含んだ唾液が体内へと侵入し、感染していきます。ウイルスはその後、2週間〜2ヶ月ほど体内に潜伏するのですが、狂犬病を発症すると「前駆期」「狂躁期」「麻痺期」の3つの期間を経て、やがて死に至ります。
また、発症する症状も大きく分けて「狂躁型」と「麻痺型」に分けられますが、麻痺型である場合、非常に早い段階で麻痺症状となり、わずか数日で死に至る事になります。しかし、その多くは狂躁型で、狂躁期の凶暴になっている間に事故が起こり、感染が広まるという場合が多いようです。
このように、狂犬病は非常に恐ろしい病気であり、確実な予防接種が望まれます。狂犬病の予防接種を受けることによって、こうした脅威から犬を守ることができ、また自らの身を守ることにも繋がるのです。狂犬病の予防接種は、万が一の蔓延を防ぐためにも必要な予防策でもあり、飼い犬や飼い主の身を守るためにも、非常に大切な予防策となるのです。
高熱を発症する感染症「Q熱」
「Q熱」とは、「コクシエラ・バーネッティ」と呼ばれる細菌が原因となる病気・感染症で、ズーノーシスであることでも知られる病気です。致死率は低いですが、40℃近くの高熱が上がる他、インフルエンザにも似た症状を発症し、肺炎や肝炎といった病気を併発することもあります。犬が感染した場合には、そのほとんどは無症状ですが、妊娠中のメス犬が感染してしまうことで、流産や死産といった症状が見られます。
Q熱の原因となる細菌コクシエラ・バーネッティは、熱や乾燥、消毒、紫外線などの抵抗力に優れる細菌で、自然界においても感染域が広いという事が特徴です。また、感染力も強く、細菌1個だけでも感染力を発揮する、恐ろしい細菌です。
また、自然界においては「マダニ」がQ熱を保菌している場合も多く、散歩や外遊びなどでマダニに咬まれることでも、感染が認められます。
治療には約3週間〜1ヶ月の期間を要し、さらに症状が無くなってからも、3週間以上の投薬治療を行う必要があります。また、慢性症状のQ熱も存在し、Q熱を発症した後、約5%の確率で慢性症状のQ熱へと移行することがわかっています。慢性症状の場合、半年以上も慢性的にQ熱の症状が続き、骨髄炎や心内膜炎といった重篤な症状を発症し、命の危険にもさらされる場合があります。
しゃみや鼻水が初症状の「クリプトコッカス症」
愛犬がくしゃみや鼻水、特に粘着するような鼻水を垂らしていないでしょうか。こうした症状が見られる場合は、「クリプトコッカス」と呼ばれるカビが原因となって引き起こされる「クリプトコッカス症」に感染していることを疑ったほうが良いかもしれません。
ズーノーシスであることでも知られる本病の症状は、くしゃみや鼻水、元気の減退といった症状が見られ、鼻に潰瘍ができる場合もあります。症状が深刻化すると、肺炎や呼吸困難といった症状になり、さらに神経系へも障害を与えるようになります。
犬も人も免疫力が安定している健康体の場合には、その症状はほとんど現れませんが、免疫機能が低下している犬や、他の病気を発症している場合に、感染リスクが高まっているといえます。また、人間に感染する場合も、免疫機能が低下してしまうような、「HIV」といった病気を発症している方が感染リスクが高いです。
このクリプトコッカスは、自然界においては「鳩」の糞中に多く存在している事でも知られ、また自然界の土の中や空気中にも存在しており、この飛散しているカビ=クリプトコッカスを吸い込んでしまうことで感染が成立します。吸い込んでからは、「気道」「肺」「皮膚」「眼」などに感染していき、症状が重篤化すると神経系へと感染を広げていきます。
繁殖機能に障害が残る「ブルセラ症」
ブルセラ症とは、「ブルセラ菌」と呼ばれる菌に感染することによって生殖器系に影響を及ぼす感染症で、ズーノーシスである事でも知られる病気です。生命を危険にさらす病気とまではいきませんが、万が一感染が確認された場合には、診断した医師が保健所に届け出なくてはいけない「四類感染症」の対象となっている病気の一つでもあります。
犬がブルセラ症に感染した場合には、オス犬は精巣に炎症が起こり腫れ上がり、次第に腫れが萎んでいきますが、精巣の機能も破壊されてしまい、無精子症となってしまいます。また、メス犬が感染した場合には、妊娠45日〜55日頃に流産してしまうようになり、感染以後も流産を繰り返すようになるため、結果、不妊体質となってしまうのです。
このように犬がブルセラ症を発症した場合には、繁殖能力に影響を与えてしまい、子孫を残すことは絶望的となるでしょう。
ブルセラ症に感染するルートは定かではありませんが、海外からもペットが輸入されてきている現代では、いつ感染してもおかしくはありません。多頭飼育をされている場合には、飼育環境は常に清潔に保つようにしましょう。
ズーノーシスによる感染を防ぐために
このように、様々なズーノーシスである感染症が存在しますが、こうした感染症を予防するためには、ワクチンによる予防接種がとても重要になります。また、ズーノーシスである病気を知ることも、予防の一手となるでしょう。
また、まずは犬が感染しないことも大事ですが、愛犬からの経口感染などを防ぐためにも、普段の生活において犬と口を合わせるような行為も危険とされています。これは、犬に対しても同じことがいえますが、こうした感染症が移るのは経口感染である場合が多いため、万が一、感染症を発症していた場合には非常に危険な行為となってしまうのです。
かわいいために口をつけたりしてしまいがちですが、自分も、愛犬の健康も守るために、こうした行為は避けるようにし、また飼育環境を常に清潔に保つようにしましょう。そして、散歩を含む外遊びをする際には、マダニ予防等にも気を付けるようにし、常に感染症に気を付けるようにしましょう。
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