猫の疲労回復や精神安定にも効果のある「ビタミンB1」。炭水化物を消化するためには必要不可欠なビタミンで、脳や神経系への栄養分を生み出すために欠かせないものです。今回はこのビタミンB1の必要性と働きについて解説していきます。
ビタミンの性質
猫や人間に必要な5大栄養素には「タンパク質」「脂質」「ビタミン」「炭水化物」「ミネラル」の5つが挙げられますが、これらに加えて必要な栄養素「水」を入れることで、6大栄養素とも言われます。この内「ビタミン」は、猫の生命を維持するために必要な栄養素でもあり、猫の成長のためにも欠かせないものです。
また、同じビタミンでも、脂に溶ける性質を持つ「脂溶性ビタミン」と、水に溶けて尿と共に排出される「水溶性ビタミン」の2つに分類されます。ビタミンC等に代表される「水溶性ビタミン」であれば、水分に溶けるために猫が大量に摂取しても、尿とともに排出されるので、ビタミン過剰となることはありませんが、「脂溶性ビタミン」に関しては、体内に蓄積される性質を持ち、ビタミンの過剰摂取となる場合もあります。
「ビタミンB1」について
「ビタミンB1」は水溶性のビタミンで、「チアミン」とも呼ばれるビタミンの一種です。そして、この水溶性であるビタミンB1は、猫の体内に蓄えておくことのできない栄養素でもありますので、毎日ビタミンB1を摂取する必要があるのです。
ビタミンB1の働きには、猫の神経系統を正常に保つ働きがあるほか、炭水化物を消化するためにも必要な栄養素でもあります。ちなみに、消化された炭水化物は「糖質」に変わり、この糖質が神経系統への大事な栄養素となります。
「ビタミン」と聞くと、体のエネルギー源となるイメージもありますが、ビタミンB1自体は先ほども触れているように水溶性であるために、エネルギー源にはならず、こうして消化を助けたり、体を正常な状態に働かせるためのサポート的な役割を担っているのです。
ビタミンB1が不足することで起きる「ビタミンB1欠乏症」
前述のように、ビタミンB1自体はエネルギー源にはなりませんが、ビタミンB1が体に不足してしまうことで、どのような悪影響が起きるのでしょうか。
1つは、前項でふれたように炭水化物を消化し、糖質を生み出す働きをしているため、ビタミンB1が不足することによって、当然、炭水化物は消化されず、糖質も生み出されなくなってしまいます。
そのため、糖質を栄養としている神経組織は栄養不足となり、歩行障害や視力障害といった神経系の障害が起きはじめます。他にも、脚気、痙攣、疲労感、筋力の低下といった悪影響が起こり、やがては昏睡状態に陥り、命を落としてしまう結果となるのです。
ビタミンB1の重要性
また、猫特有の欠乏症の疾患として「チャスティック麻痺」と呼ばれる、復帰反射運動障害が引き起こされる場合もあります。チャスティック麻痺は犬には見られない麻痺症状ですが、上記に挙げたような症状以外にも猫の場合は引き起こされる可能性があります。
このように、ビタミンB1は猫の体にとって非常に大切な栄養素でもあり、生命を維持するためには欠かせないものなのです。ビタミンB1が体に不足していれば、いくら炭水化物を摂取しようが、意味がないということになります。
この状態を、「ビタミンB1欠乏症」もしくは「チアミン欠乏症」と呼びます。
ビタミン全てに言えることですが、あくまでもビタミンのバランスが保たれていなければ、何かしらの悪影響が引き起こされてしまうのです。
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急性ビタミンB1欠乏症
犬や猫が「イカ」を食べると腰を抜かすという話しを聞いたことがあるでしょうか。
この腰を抜かすという状態は「急性ビタミンB1欠乏症」に見られる症状で、急激にビタミンB1が分解されてしまい、ビタミンB1を体内に摂取できなくなることで引き起こされる症状です。
このビタミンB1を分解してしまうものが「チアミナーゼ」という酵素。そして、イカにはこのチアミナーゼが含まれているのです。
そのため、犬や猫がイカを食べると、チアミナーゼがビタミンB1を分解、よって炭水化物が消化出来なくなり、歩行障害・腰を抜かすといった症状が現れるのです。
しかし、実際には必ずこうした状態になるという訳ではありません。とは言え、可能性としては十分に考えられるので、ある程度の知識を持っておくことが大事です。
チアミン欠乏症とも呼ばれる
ビタミンB1はチアミンとも呼ばれ、ビタミンB1が欠乏してしまうことで「チアミン欠乏症」と呼ばれる症状が引き起こされます。
チアミン欠乏症の代表的な症状は上記にも挙げた、腰を抜かしてしまうという症状ですが、他にもフラフラと歩き回る様子が見られたり、体を反らせる、首がうなだれる、よだれが増える、瞳孔の反射が悪くなるといった症状も見られるようになります。
主な初期症状としては嘔吐してしまったり、食欲の減退が見られるようになります。こうした症状を経て、次に引き起こされる症状は体のふらつきや、瞳孔が開く・瞳孔の反射がわるくなる状態になります。
腰を抜かすという状態は、こうした症状がいくつか組み合わさった場合や、ふらふらと力なく歩き回る様子から、腰を抜かすという症状に見られるのでしょう。
チアミン欠乏症の対処
チアミン欠乏症の症状がさらに悪化してくると、痙攣が起きたり、異常な大声で鳴き出すといった特異な症状が引き起こされるでしょう。
このような異常な行動を起こした後には、次第に気を失ってしまったり、昏睡状態に陥ることになり、その後、命を落としてしまうような最悪のケースも引き起こされてしまいます。
誤って愛猫がイカを食べてしまい、その後に嘔吐やおかしな動きを見せるようであれば、初期症状のうちにすぐに動物病院に行かなければなりません。
様子を見るなどせず、誤食してしまった時点ですぐに動物病院で検査を行うよう、迅速な対応が大切になってきます。そのためには、飼い主さんがチアミン欠乏症に対しての知識を持ち、どのような状態になるかを把握しておくことが大切になるのです。
イカ以外の食べ物にも注意
チアミナーゼはイカ以外の魚介類や甲殻類、具体的には「マグロ」や「カツオ」等にも含まれているため、注意が必要です。とはいえ、このチアミナーゼの最大の弱点は「熱」。そのため、火を通すことでチアミナーゼは分解されるのです。
犬や猫に魚介類や甲殻類を与える際には、間違っても生で与えるようなことは避け、必ず火を通した状態で与えるようにしましょう。
また、猫の体内にビタミンB1がしっかりと蓄えられているのであれば、場合によってはチアミン欠乏症を引き起こすこともない場合もあります。チアミン欠乏症はビタミンB1の欠乏で引き起こされるものですが、ビタミンB1の蓄えによっても症状を引き起こすかどうかは変わってきます。
水溶性ビタミンは過剰症の心配はありません
チアミナーゼを摂取してしまうと必ずチアミン欠乏症が引き起こされるわけではありませんが、大切なのは日頃から栄養のバランス、健康管理をしっかりと行っていることが大事な予防策となります。
中でもチアミン欠乏症を予防するためにはビタミンB1をしっかりと摂取しておくことが大切になりますが、気になるのは過剰に摂取することで引き起こされる「過剰症」です。
しかし、ビタミンB1は「水溶性ビタミン」ですので、過剰に摂取しても体外へと排泄されますので、過剰症の心配をする必要はありません。また、猫によっても許容量は微妙に異なりますので、一概にこの量という決まりはありません。
大切なのは、日頃から意識的にビタミンをバランスよく摂取させられるかということです。
まとめ
ビタミンB1を多く含む食品には「豚肉」や「鶏レバー」、「シャケ」「玄米」「大豆」「いんげん豆」等が挙げられます。炭水化物を取り入れる際には、上手にこれらの食材も取り入れるようにすると、より良い効果が期待できるでしょう。
注意しなければいけないのが、ビタミンB1も「熱に弱い」という事。これらの食材を利用する際には、ビタミンB1が分解されてしまわないよう、また、大豆などの食材はそのまま利用すると消化にも良くないので、しっかりと加工してから与える必要があります。
そして、ビタミンB1は精神安定や疲労を回復させるのに適したビタミンでもあるため、運動を行った後や愛猫の元気が無い時などにも、効果的にビタミンB1と炭水化物を取り入れることで、疲労回復・精神安定の効果を生み出し、体の回復を早めてくれるでしょう。
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