「門脈シャント」ってご存じですか?あまり聞き慣れない病気だと思います。では、どんな病気なのか、どのような症状が現れるのか、どんなことが原因で発症するのか、犬の臓器の病気である「門脈シャント」について考えてみましょう。

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門脈シャントとは

本来、正常な犬の場合は、食事から摂った栄養素や、アンモニアや毒素は、消化器から血管(門脈)を通って肝臓に集まり、解毒されてから後大静脈(のちだいじょうみゃく)を経て心臓に送られます。

しかし、門脈シャントになると、門脈から送られてきた成分が、肝臓を通らず、解毒されないまま直接的に後大静脈へ入ることにより、栄養素が十分に体内に行き届かなかったり、本来流れることのないアンモニアや毒素が大量に全身へ循環してしまうことで、意識障害などの肝性脳症を引き起こしてしまいます。

また、門脈血には、肝臓を発育させる成分も含まれているので、その成分の肝臓への流入減少により、肝臓が小さくなる「小肝症」になることがあるようです。

このように、門脈から肝臓を通らず直接的に後大静脈へ入る血管の異常のことを「門脈シャント(門脈体循環短絡症)」と言います。

門脈シャントの原因


門脈シャントの原因は、先天性のものと後天性のもので分類されます。先天性が原因となったものは、産まれた直後に閉鎖するはずの胎児期の静脈管が閉鎖せず、そのまま存在してしまったためにできたものです。

先天性の門脈シャントの場合、肝臓内にシャント血管ができる「肝内性シャント」と、肝臓の外にシャン血管ができる「肝外性シャント」があります。全体的に約70%が肝外性シャントであると言われており、肝外性シャントは小型犬、肝内性シャントは大型犬に発症することが多いようです。

後天性の門脈シャントの場合は、慢性肝炎や肝硬変などの重度な肝臓疾患を引き起こしたことにより、これらの症状を緩和させるために、生体反応として、必然的にバイパス血管(シャント)ができます。この時、異常な血管が複数本できた場合は「多発性シャント」といい、外科的治療を行えません。

門脈シャントは遺伝によるもの?

門脈シャントは遺伝によるものが多いと考えられています。必ずというわけではありませんが、門脈シャントを持つ好発犬種は念の為、注意したほうが良いでしょう。子犬の頃の様子をしっかりと確認しておくことが大事です。

先天的に門脈シャントを発症しやすい犬種は、「ヨークシャー・テリア」「シーズー」「ケアーンテリア」「マルチーズ」「ミニチュア・シュナウザー」「オールドイングリッシュ・シープドッグ」「アイリッシュ・ウルフハウンド」「ラブラドール・レトリバー」などが挙げられます。

なお、これら好発犬種以外でも当然、門脈シャントをもつ場合があります。上記に挙げた犬種はあくまでも遺伝的に多いと考えられている犬種です。対象外の犬種であっても、絶対ではありません。

門脈シャントの症状

門脈シャントを発症している子は、軽症の場合、食欲不振や下痢、嘔吐などの、おもに消化器系に症状が見られます。比較的軽度である場合には、上記のような症状がみられますが、これが重症の場合になると、神経症状に悪影響が見られ始めます。

重度の場合の症状は、主に食事後に症状が現れることが多く、食事を摂ってから1~2時間後は血中のアンモニア濃度も上昇しているため、脳に悪影響を及ぼします。具体的な症状としては、食後にボーッとしてたり、ふらつきやよだれをたらすような様子が見られるようになります。

また、さらに症状が重くなると、今度は意識障害、痙攣や一時的盲目、昏睡というような肝性脳症を引き起こし、最悪の場合死に至ります。

頻尿の症状もみられる門脈シャント


門脈シャントの症状は、大量のアンモニアや尿酸が排出されることにより、尿路に尿酸アンモニウム結石が出来やすくなるといった悪循環も及ぼし始めます。

主な病気に尿路結石症や膀胱炎、膀胱結石といった病気を併発することもあり、血尿を排出することもあります。このように、泌尿器系の疾患を併発することもあるため、愛犬の様子がおかしいと感じた時はすぐに動物病院で検査を受ける必要があります。

ただの膀胱炎かと思いきや、膀胱炎を引き起こしているのが門脈シャントである場合もありますので、油断は出来ません。前述でも触れた「ふらつき」や「よだれをたらす」「どこかぼーっとしている」といった症状は、血中濃度の異常が懸念されます。日頃からしっかりと様子を確認するようにしましょう。

門脈シャントの治療

門脈シャントの治療方法は、内科的治療と外科的治療がありますが、基本的には、外科的手術をして、原因であるシャント血管を閉鎖することでしか完治することは難しいため、外科的手術が必要となります。また、肝内性シャントや先述した多発性シャントに関しては、外科的治療が困難であると言われています。

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内科的治療

内科的治療を行う場合は、肝性脳症の症状の緩和や、ある程度の延命を目的としたもので、外科的治療が困難な時や、症状が軽い時、手術までのつなぎの治療で行います。

肝性脳症の原因であるアンモニアをできるだけ作らないようにするため、動物性タンパク質の低い食事を与えたり、アンモニアの吸収を抑える薬剤の投与などを行います。

しかし、薬と食事によりきちんと管理ができていたとしても、時間と共に徐々に肝臓の状態が悪化し、肝線維症から肝硬変に至ります。

外科的治療

門脈シャントを完治させることや、長期延命が期待できる唯一の方法として、シャント血管の閉鎖手術をするのですが、手術前にシャント血管の造影検査を行い、血管の異常の位置を確かめてから手術を行います。

しかし、難しい血管の手術となりますので、血管の位置や状態が悪かったり、健康状態によっては手術の成功率もタイプによって様々です。とても大きな手術ですが、それを乗り切ることで、その後の症状が改善されることが期待できるのです。

門脈シャントの治療費はどのくらい?

門脈シャントの検査では、主に血液検査が行われます。また、MRIやCTスキャンと言った検査も行われるでしょう。

門脈シャントは犬の病気の中でも、少々やっかいな病気でもあります。そのため、検査費用でも5万円前後ほどがかかると考えたほうが良いでしょう。また、手術となると、動物病院や門脈シャントの状態にもよりますが、おおよそ30万円〜といったところです。場合によっては50万円〜100万円ほどかかるケースもあります。

門脈シャントはある程度機材の揃っている動物病院でなければ対応も出来ません。そのため、病院が変わる可能性もある事を理解しておきましょう。大学病院は機材も揃っているため、満足の行く治療を受けさせることは出来ますが、治療費としては安くはないでしょう。

ペット保険の必要性


このように、高額な治療費が発生してしまう門脈シャントですが、ペット保険に加入しているのとしていないのとでは大きな違いになるでしょう。

最近では少額短期保険会社も多く登場していますので、月々2000円ほどでも十分な補償が受けられる保険が多いです。

ただし、門脈シャントの症状が見られてから保険に加入したのでは、少々遅いです。ペット保険の多くは「待機期間」がありますので、軽い症状が見られていても、待機期間中に様態が急変しても、補償の対象外となってしまいます。

また、症状が見られている状態で加入しても、補償の対象外とされる場合があります。これは門脈シャントに限られた事ではありませんが、すでに発症している病気に対しては補償の対象外となります。

門脈シャントは完治可能な病気

ペット保険は健康である時に加入しておくべきであり、こうした万が一の際に利用できるように、日頃から備えておくことが大事なのです。ですので、症状が見られてから慌てて加入しても、「門脈シャント」に対しての保険としては意味はありません。

そのためにも、早期発見・早期治療が大事であり、いつでも検査や治療を行えるように保険に加入しておくのが大事なのです。

門脈シャントは予後としてはあまり明るくはない病気です。しかし、早期発見・早期治療が行えれば、シャントの種類にはよるものの、完治させることは可能な病気ではあります。いかに早く症状や変化に気がつけるか、いかに早く治療を行えるかで、その後の状態は大きく変わっていくでしょう。

門脈シャントを予防するために

門脈シャントの発見が遅れたりなど、経過が長く経ってしまい、肝臓のダメージが大きくなってしまった場合は、手術可能であったものでも手術が困難になることもあります。また、手術をしたとしても、肝硬変などを併発していると、術後の経過が良くない場合もあります。

門脈シャントは予防することができません。子犬なのに大人しいなと感じたり、食後にぐったりとした様子が見られるなど、他の犬と比較してみることも大事です。ちょっとでもおかしいなと感じたのであれば、すぐに診察を受けるようにしましょう。

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