あまり聞き馴染みのない「Q熱」と呼ばれる病気。このQ熱は「ズーノーシス」であることでも知られています。非常に抵抗力のあるQ熱の原因となる細菌は、外界でも生存し、塵となっても感染力を持つ、恐ろしい細菌です。今回はQ熱について解説していきます。
「Q熱」とは
「Q熱」という病名を聞いたことがあるでしょうか。「Q熱」とは、「コクシエラ・バーネッティ」と呼ばれる細菌が原因となる病気・感染症で、「ズーノーシス(人畜共通感染症)」であることでも知られる病気です。
聞き馴染みのないQ熱という病名ですが、「Query=不明」という英単語から由来する病気で、1935年のオーストラリアで、原因不明の感染症が流行し、感染した人の症状に熱が出ることが共通していたために、「Q熱」または「コクシエラ症」という病名が付けられました。
あまり聞き馴染みのないQ熱ですが、海外ではパンデミックも発生している病気でもあり、日本においても年間数例の感染報告があるため、決して油断は出来ない病気となっています。
「Q熱」の症状について
致死率は低いですが、Q熱を発症すると40℃近くの高熱が上がる他、インフルエンザにも似た症状を発症し、肺炎や肝炎といった病気を併発することもあります。
犬が感染した場合には、そのほとんどは無症状ですが、妊娠中のメス犬が感染してしまうことで、流産や死産といった症状が見られるのが特徴となります。
単体の症状としては重篤になる可能性の低い病気ではありますが、Q熱を引き起こすことで免疫力が低下してしまい、結果として重篤な病気を引き起こす可能性は十二分にあるということを理解しておくようにしましょう。
中でも、人間がQ熱を発症した際には「不定愁訴」を訴える場合も多く、場合によってはうつ病にも似た症状になるため、誤診には注意が必要となります。
ズーノーシス(人畜共通感染症)
「ズーノーシス(人畜共通感染症)」という言葉をご存知でしょうか。ズーノーシスとは、犬に限らず、猫やうさぎ、鳥といったように「ペット」として飼われる動物はもちろん、人間にも感染する感染症の総称です。
現代社会では、こうした様々な動物をペットとして飼育しているシーンが多いですが、犬の散歩中や、猫が外を徘徊中、何らかの理由で感染し、飼い主にも感染が拡がる恐れがあるもので、感染症の種類も様々な病気が存在し、日本国内では約80種もの病気が確認されています。
その中でも特に有名なズーノーシスと言えば「狂犬病」です。狂犬病は、犬・猫・人にかかわらず、猛威を振るう感染症で知られますが、中には犬には症状が無くとも、人には重篤な症状がある場合や、その逆の場合もあるなど、病気によって症状も様々です。
Q熱の原因について
Q熱の原因となる細菌「コクシエラ・バーネッティ」は、「熱」や「乾燥」「消毒」「紫外線」などに対して抵抗力に優れる細菌で、自然界においても感染域が広いという事が特徴です。また、感染力も強く、細菌1個だけでも感染力を発揮する、恐ろしい細菌です。
大概の細菌は、体内から外界・自然界へと放出されるとしばらくは感染力を持つものの、いずれは死滅する場合が多いですが、このQ熱は乾燥にも強いため、塵埃となり空気中に飛散しても感染力を失いません。
こうしたことから、飼い犬がQ熱に感染し、糞便を放置、乾燥し飛散することなどでも感染が認められます。
熱処理や消毒といった殺菌方法にも耐えうる細菌であるために、対応策についても十分に理解しておく必要があります。
Q熱を保菌する「マダニ」
乾燥に強く、塵埃として飛散してしまう細菌「コクシエラ」。自然界においては「マダニ」がQ熱を保菌している場合も多く、愛犬の散歩中や外遊びなどでマダニに咬まれることでも、感染が認められます。
そして、感染してしまっても犬に関しては症状が現れない場合が多いため、知らぬ間に、飼い主に感染を拡げるという場合も考えられるのです。
マダニはQ熱以外にも様々な病気やリスクを運んでくる生物であるため、特に夏場はむやみやたらと草むらに入らないようにすることや、不衛生な所に愛犬を連れて行ったりしないことが重要です。
もちろん、愛犬だけではなく、Q熱は人間に対しても症状が見られるものですので、十分に注意するようにしましょう。
Q熱の治療について
人間がQ熱を発症してしまった場合には、抗生物質の投与による治療が行われます。治療には約3週間〜1ヶ月という長い期間を要し、さらに症状が無くなってからも、3週間以上の投薬治療を行う必要があります。
これは、Q熱の潜伏期間が2週間程度あることから、念のための再発を防ぐためにも重要な期間となっています。
また、慢性症状のQ熱も存在し、Q熱を発症した後、約5%の確率で慢性症状のQ熱へと移行することがわかっています。慢性症状の場合、半年以上も慢性的にQ熱の症状が続き、骨髄炎や心内膜炎といった重篤な症状を発症し、命の危険にもさらされる場合があります。
わずかながら死亡例もあり、2%という数字ながら油断は決してできない感染症です。
Q熱の犬の症状や治療について
前述の通り、Q熱は犬が感染しても無症状、もしくは軽い発熱程度の軽症である場合も多く、自然治癒で治るものとなっています。しかし、マダニを介して犬から人間に感染した場合には、約50%の確率で発熱などの症状を発症してしまうのです。
犬にとっては、妊娠中の犬以外は、そこまで神経質になる必要はないかもしれませんが、ズーノーシスである感染症のため、それ以上の感染を広げないためにも、しっかりとした飼育管理が必要となるでしょう。
特に、出産後の胎盤には多くのコクシエラ・バーネッティが含まれるため、処理には十分に注意しなければなりません。乾燥や熱にも耐性がある菌ですので、処理の仕方にも気を使う必要があるでしょう。飼い主さん以外にも、処理したものを触る機会がある人にも、注意喚起を行いましょう。
家畜にもリスクが高いQ熱
Q熱が猛威を振るい、海外でパンデミックを起こしているのは食肉加工場や乳牛加工場・羊毛処理場など、家畜が標的となるのが主です。
家畜にも色々な種類がいますが、牛乳を生産してくれる「牛」や、羊毛や肉を生産する「羊」、この他小型の哺乳類や鳥などが含まれます。いずれの種類も、私達の生活に身近な存在でもあり、人間が生きていく上でもなくてはならない動物たちです。
こうした家畜からも感染源が拡がる事から、Q熱の原因となるコクシエラ・バーネッティは感染動物が死してもなお生存しており、非常に強い生命力が特徴となります。また、コクシエラ・バーネッティは外界で猛威を振るうことや、卵や乳等もQ熱の感染源であることも前述の通りとなります。
63℃で30分の殺菌で死滅
コクシエラ・バーネッティは屠殺された後の家畜や、家畜から生産された牛乳や卵からの感染も認められるため、日本では2002年からこれらの食品に対して加熱処理を行い、食の安全対策が講じられるようになりました。
熱に対しても耐性を持つコクシエラ・バーネッティですが、牛乳などは63℃で30分の加熱殺菌を行うことで滅菌が可能であることがわかっています。日本ではこうした処理が義務付けられているため、牛乳は安心して飲むことができます。
卵に関しては検査が行われているものの、コクシエラ菌に感染している例はありませんので、卵からの感染について必要以上に神経質になる必要はありません。
こうした感染経路よりも、マダニを介した愛犬からの感染経路の方がリスクが高いと言えるでしょう。
Q熱を予防するために
犬がQ熱に感染しないためには、Q熱にかかわらず、他の感染症に感染している可能性のあるマダニを予防する事が、最善の予防策となります。
Q熱自体を予防する有効な方法は残念ながらありませんので、マダニからの感染や、散歩中の拾い食いや、他の犬の糞尿等の臭いを嗅がせに行かせない事などが、一つの予防策となるでしょう。
犬には感染しなくとも、飼い主自身が感染してしまう恐れのあるQ熱。普段から、こうしたマダニやノミ等の対策を心がけるようにし、キャンプ等で外遊びする際には、犬の放し飼いは絶対にしないよう、注意が必要です。
また、潜伏期間も長いため、ちょっと心配な症状が見られた場合には、すぐに病院に行くようにしましょう。
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