盲導犬や介助犬など、私達の生活をサポートする為に仕事に従事する犬がいますが、中には軍人として従事する「軍用犬」という犬も存在します。非常に長い歴史を持つ軍用犬、現在もその働きによって人間が救われたりしていますが、一方では犠牲になる軍用犬も。

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軍用犬の「任務」とは


犬は私達の仕事を手伝うために、様々な仕事に従事してきました。その中でもとりわけ危険度の高い仕事が、軍の一員として仕事に従事する「軍用犬」です。

戦争は人間の都合によって起きるもので、犬たちには何の関係もありませんが、犬の持つ優れた能力を武器の一部として取り入れたものが、軍用犬の仕事となります。戦場における軍用犬の仕事にも色々な物があり、

・伝令を届けるための「伝令犬」
・地雷や爆弾等の探知を行う「探知犬・検知犬」
・敵の追跡や味方を捜索するための「追跡犬」
・見張り等の警護や護衛をするための「警備犬・哨戒犬」
・弾薬や医療薬を運搬するための「輸送犬」
・直接、攻撃を加えるための「戦闘犬」
・戦車の下に潜り込ませ自爆させる「対戦車犬」
・負傷者のケア等を行う「セラビー犬」

など、過去や現在においても、非常に多岐にわたる種類が存在します。

軍用犬はなぜジャーマン・シェパード

軍用犬と言えば「ジャーマン・シェパード」のイメージが強いのではないでしょうか。

ジャーマン・シェパードはドイツ原産の大型犬種ですが、ジャーマン・シェパードの元となる犬種は牧羊犬で、ドイツの農場ですでに活躍していた牧羊犬を、優れた軍用犬を作出するために作り出された犬種が、このジャーマン・シェパードだったのです。

1899年に作出されたジャーマン・シェパードは、軍用犬として作出されただけあり、様々な点に置いて優れた犬種でしたが、戦後はナチス・ドイツのイメージもあり、虐殺などによってその数を減らしてきたという暗い過去も持つ犬種です。

現在において、軍用犬にジャーマン・シェパードが多いのは、そもそもが軍用犬として作り出された犬種であり、多くの犬種の中でも特に優れた能力を持ち合わせているジャーマン・シェパードが軍用犬として最適であるという理由でしょう。必然的に軍用犬にジャーマン・シェパードが多いのも理解できます。

軍用犬の歴史と現在の活動

軍用犬として活躍する犬種には、「ジャーマン・シェパード」や「ベルジアン・シェパード・ドッグ」「ダッチ・シェパード」、他にも「コリー」「ジャイアント・シュナウザー」「ドーベルマン」「エアデール・テリア」等が挙げられます。

日本においては、すでに戦国時代から伝令犬として、犬を軍用として使用していた記録も残されています。

世界の軍用犬を見てみると、その歴史は古く、古代エジプトやギリシャなど、紀元前から始まっていました。その後も軍用犬の歴史は続き、多くは世界大戦時に使用されることとなります。

現在では、探知犬や検知犬、追跡犬としての活動が多く、自爆テロ犯の捜索や戦地の爆発物の捜索、戦場での負傷者の発見や、戦場に巻き込まれた一般人の救出や捜索などを行い、多くの命を救ってきています。

戦地に赴く軍用犬とその訓練

テロ活動が活発な昨今、軍用犬はこのような任務に付き、軍としての仕事だけではなく、一般市民を助けるために活動しているのです。そして、軍に同行するセラピー犬等も、戦場においては唯一の癒やしとなり、敵地での敵に対しての憎悪を鎮めるといった効果も見せています。

同じ軍用犬と言っても、実際の戦地に赴き、作戦を遂行する軍用犬もいれば、前線には行かずに戦地で別の作戦を行う軍用犬も存在しているのです。

とはいえ、同じ戦地であることには変わりがありません。危険は常に付きまとっている状況下ではありますので、前線に行かない軍用犬と言っても、しっかりと訓練を行い、危険な環境下でも任務を遂行できるように厳しい訓練を重ねているのです。

ハンドラーと軍用犬の絆


こうして軍事兵器や特殊任務に就くために訓練された軍用犬たち。そして、軍用犬の側には必ず、彼らの行動を指示するための「ハンドラー」と呼ばれる存在がいます。

このハンドラーとなる人間も一兵士として従事、常に軍用犬と行動を共にし、またパートナーとして活動を共にしています。そのため、軍用犬とハンドラーは一心同体でなければなりません。

ハンドラーと軍用犬の関係は、まさに家族同様の存在であり、ハンドラーは自らの軍用犬を子供のように育て、訓練し、パートナーとして共に存在しています。ハンドラーは軍用犬の活躍を期待し、軍用犬もまた、ハンドラーと共に仕事をすることを喜びとしています。

そのため、ハンドラーと軍用犬には切っても切れない絆があるのです。

軍用犬の第2のキャリアと引退

ベトナム戦争時には軍用犬の戦死等によって「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」を患うハンドラーの兵士も多く、2000年には当時のアメリカ大統領 ビル・クリントン氏の署名によって「軍事作業犬の帰還プログラム」が発足、戦争に従事した軍用犬が里親の元で「普通の犬」として復帰するための取り組みが行われています。

また、軍用犬が怪我や病気のために一般家庭での引き取りが難しい場合には、軍の有資格者の元で余生を送ります。

中には、セラピー犬として第2のキャリアを送る軍用犬も少なくないようです。しかし、こうして軍用犬として引退できる犬もいれば、戦死してしまう軍用犬がいることも事実。アメリカ軍においては、1944年の第2次世界大戦時のグアム戦にて25匹の軍用犬が戦死し、慰霊碑も建てられています。

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戦争が生んだ非人道的な軍事兵器「対戦車犬」の存在

第2次世界大戦時、旧ソ連軍が開発した「対戦車犬」。内容的にも残酷なものですので、残酷な話が苦手な方はこの項目は飛ばしたほうが良いかもしれません。

あまりにも非人道的・動物虐待となるこの「対戦車犬」。対戦車犬の訓練は、戦車の下に食べ物を置き、それを食べに行く訓練を重ねられました。戦車の下に行けば食べ物があると躾けられているわけです。

そして、実戦時には対戦車犬の背中には1本の棒と爆弾が取り付けられます。爆弾を背負った犬には、起爆スイッチとなる垂直に立てられた棒が背中に装着されるのです。さらに、実戦の前には空腹状態にされました。

こうして対戦車犬は、背中に爆弾を背負ったまま敵陣の戦車の下へと潜り込み、起爆装置である棒が戦車に当たることで起爆、戦車もろとも吹き飛ばすという残虐な方法だったのです。

テロリストも同様に犬を兵器として利用


しかし、現実には戦場の爆発音、戦車の轟音、戦車の火炎放射等によって対戦車犬が逃走し、自軍で爆発したり、訓練を行っていた戦車が自国の戦車であったために、自国の戦車目掛けて対戦車犬が走っていき爆発するなどし、対戦車犬は失敗に終わります。1942年からはその姿は戦場から消えることとなりました。

まさに人間の勝手な都合によって作り出された、非人道的極まりない軍事兵器でありますが、この現代においてもなお、2007年頃に反政府武装勢力が、遠隔装置付きの爆弾を背負った犬を使う事態が起きました。

これに対し、イスラムの教えに背くとして市民からは強く批判されました。あまりにも身勝手な人間の考えや行動によって犠牲になった軍用犬がいた事を、忘れてはなりません。

まとめ

残酷な歴史もあれば、現代において軍だけではなく、戦火に巻き込まれた一般市民の救出を行い、命を救うという事実もある軍用犬。過去のような扱われ方をしてはいないものの、危険な仕事に従事しているという事実は否めません。

犬の持つ優れた能力のために、このように人間を助けるために訓練される従事犬たち。こうした危険な任務に就く犬たちがいるという事を忘れてはいけませんし、危険な使われ方をしないように見守る事もまた、私達の大事な使命でもあります。

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