飼い猫によって、飼い主の命を危険にさらすことも考えられる「エキノコックス症」。北海道のみならず、道外でも感染が確認されている今、エキノコックスの知識を持っておく必要があります。今回はエキノコックスについて紹介したいと思います。

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エキノコックスとは

北海道では馴染みの深い「エキノコックス」という寄生虫が寄生したことで引き起こされる「エキノコックス症(多包虫症)」という病気。道外では意外と聞き馴染みのない方も多いかもしれませんが、北海道ではエキノコックスと聞くと、「キツネ」や「自然の水」といったワードが浮かぶ方も多いかと思います。
このエキノコックス症ですが、「ズーノーシス(人畜共通感染症)」であることでも知られ、人間がエキノコックス症を発症することで、命に関わる重篤な症状を引き起こしてしまう病気として知られています。
ただし、ズーノーシスとはいえ、実は猫がエキノコックス症になっても命の危険はありません。ところが、愛する飼猫が「宿主」となり、私達の命を危険にさらしてしまう可能性があるため、非常に注意が必要な寄生虫でもあります。

潜伏期間の長いエキノコックス

人間がエキノコックス症を発症した場合、初期症状はほとんど見られません。しかし、エキノコックスは人間の体内、主に肝臓へと寄生して増殖していきます。
エキノコックスが恐ろしいのは、この段階では全く気が付くことができず、成人であれば発症までに数10年をかけることもあり、気がつかない間に体の他の臓器にもエキノコックスが寄生していくということです。
一方、子供の場合にはもっと進行が早く、わずか数年で症状を発症することもあるようです。
また、肝臓に寄生するエキノコックスを、検査の段階で肝臓がんと誤診される場合もあるようで、実際に外科手術を行う際にエキノコックス症と判明することもあります。しかし、末期の状態になると、臓器の様々な箇所へ寄生するために、非常に困難な手術となります。

犬や猫へ感染した場合の症状とは

犬や猫がエキノコックスに感染してしまった場合には、どのような症状が見られるのでしょうか。
実は、犬や猫がエキノコックスに寄生されても、まれに粘膜便や下痢といった症状を起こすだけで、これといった特別な症状は起こりません。反対に、人間がエキノコックス症を発症すると、重い肝機能障害を患うことになり、やがては命を落としてしまう場合も多いです。
エキノコックスは、飼い主である私達に危険が及んでしまう寄生虫のひとつであり、愛犬や愛猫がエキノコックスを媒介してしまう存在になってしまうのです。そのため、愛猫へのリスクはないと考えず、飼い主さん共々に十分に気を付けなければいけない寄生虫の一種がエキノコックスなのです。

エキノコックス症の症状

具体的には、規制したエキノコックスは主に肝臓へと寄生します。エキノコックスは、自覚症状のないまま増殖を続け、肝臓に病巣を形成し、嚢胞を作り出します。
この嚢胞が次第に大きくなると、徐々に血管や胆管といった部位が塞がれるようになり、次第に体の異変に気が付くようになります。この状態になると肝機能障害が起こっています。
さらに進行していくと、嚢胞が裂け、エキノコックスが血液中へと流れ出すことによって、肺や脳、骨髄といった様々な臓器に転移が広がってしまい、寄生します。
エキノコックス症を放置していると、90%以上が死に至るといった数字もでているほど、エキノコックス症は人間にとってとても危険な寄生虫なのです。

自然界で拡がる寄生虫の寄生サイクル


これまでエキノコックスは、主に北海道内における、野生動物が宿主となる病気として知られてきていましたが、エキノコックス症は野生動物だけの病気ではないという認識に変わってきています。
エキノコックスは、「虫卵→幼虫→成虫」という寄生サイクルを繰り返すわけですが、これには自然界における食物連鎖が関係しています。自然界ではキツネがネズミなどを捕食します。この捕食したネズミが「エキノコックス」に寄生されていることで、捕食したキツネがエキノコックスの宿主となります。
ではなぜ、この捕食されたネズミはエキノコックスに感染しているのでしょうか。これは、キツネの糞便から排泄されたエキノコックスの「虫卵」が、自然環境下に潜んでいるからです。

エキノコックスの寄生サイクル

【虫卵から幼虫へ】
経口感染、もしくは何かしらの事由で、エキノコックスの虫卵をネズミが口にしてしまう事で、ネズミへの寄生が確立。虫卵は小腸で孵化し、幼虫へと成長します。この状態を「中間宿主」と呼びます。
【幼虫から成虫へ】
エキノコックスに寄生されているネズミを、キツネが捕食することで、幼虫がキツネの体内へと寄生、小腸で幼虫から成虫へと成長します。
【成虫から虫卵へ】
キツネの小腸で成虫へと成長したエキノコックスが「虫卵」を産み、キツネの糞便とともに排泄されます。この排泄された糞便は、自然環境下の川や木、山菜などに付着することで、寄生ルートを広げます。

宿主はキツネの他にも


このようにして、自然環境下で宿主となるキツネですが、キツネがエキノコックスに寄生されても死に至る事はなく、エキノコックスを排泄する、いわばエキノコックスの製造元となるわけです。一方、ネズミと同じ状態になるのが、人というわけです。
このキツネと同じく宿主となるのが、犬や猫です。数年前までは、犬がエキノコックスに感染すると考えられ、猫はエキノコックスに感染されても虫卵を産むまでに育たないと言われてきました。
しかし、北海道内の飼い猫からもエキノコックスの虫卵が検出され、これまでの考えは一変され、猫も宿主となる危険性があるということがわかりました。そのため、ちょっとでも外飼いを行っている飼育環境であれば、万が一に備えておく必要があるのです。

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猫の糞にも危険が潜んでいる可能性が

エキノコックスに寄生されるのは、ネズミを捕食した場合だけではありません。先ほども触れたように、キツネの糞便だけではなく、自然環境下でのエキノコックスの寄生も十分にありえるので、猫に関しては外へ自由に行き来できる環境であれば、エキノコックスに感染するリスクも高くなります。
また、犬と猫を同居して飼育している方も少なくありません。猫の糞にもエキノコックスが寄生する可能性があれば、外を散歩する犬にも、同じように危険は拡がります。
外での散歩途中、飼い主の知らぬ間に猫の糞を踏んでしまった、もしくは舐めたり食べたりしてしまったということも十分に考えられます。こうした際にも感染が拡がるでしょう。また、宿主となっている猫が、自宅の猫トイレで糞をしていても、そこはエキノコックスの発生場所となってしまうわけです。

エキノコックスは北海道外にも危険が拡がる

北海道では、エキノコックスの感染地域は全道に及びます。これまではエキノコックスは北海道内に存在する寄生虫、キツネによるエキノコックスといったイメージが強いですが、近年では道外でもエキノコックスの感染が確認されています。
また、北海道内では札幌市内においてもキツネが確認されることもあり、たとえ都市部であっても油断はできない状況へと変化していっています。こうした理由からも、猫の離し飼いをしている場合は即刻、やめるようにしましょう。
愛する飼猫が感染することで、自らが死に追いやられる可能性も否定できないエキノコックス症。外遊びをした時などは、十分に注意して遊ぶようにし、飼育環境も自宅内のみで飼うような環境にしましょう。

エキノコックスの感染を拡げないためにも


前述の通り、エキノコックスはこれまでキツネや犬に関係する寄生虫という考え方でしたが、平成19年2月に発表された、国内初の猫からエキノコックス虫卵が検出されたという事実からは、これまで持っていた概念を一気にひっくり返すものとなりました。
「北海道動物の愛護及び管理に関する条例」においても、「猫の健康及び安全を保持するため、室内での飼養に努めなければならない。」とする条例が発表されています。これまでの外飼いを「しないようにする」のではなく、「してはいけない」という認識に変えていかなければなりません。
これまで外飼いをしていた愛猫も、自宅内での飼育になるとストレスも溜まってしまう可能性がありますが、キャットタワーなど、愛猫を飽きさせないような遊び場作りも考えてみましょう。

エキノコックスの治療と予防策

猫がエキノコックスに感染しているか不安な場合、駆虫薬の投与でエキノコックスの成虫を駆虫することが可能です。万が一、不安の残る事がある場合は、すぐにかかりつけの病院へ行って相談してみるとよいでしょう。
エキノコックスの検査に関しては、愛猫の糞便検査で感染の確認を行うことができます。また、無症状に近いとは言え、エキノコックスの治療に関しては、「プラジクアンテル」と呼ばれる駆虫薬で、エキノコックスの成虫であれば100%に近い確立で駆虫することが可能と言われています。
フィラリア等、犬や猫に感染・寄生する寄生虫はいくつかいますが、エキノコックスとなると非常に稀となるため、検査を受ける際には動物病院にて、不安に感じた経緯を説明しておいたほうが良いかもしれません。

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