前途多難な環境下で始まった、ヨウムの「アレックス」との研究。前編に引き続き、後編ではアレックスのずば抜けた知能を発揮していたエピソードを紹介していきたいと思います。31歳の若さで亡くなったアレックスが最後に残した言葉とは。

アレックスはどのようにして教えられていたのか

前編でも触れた通り、アレックスは他の研究動物とは違い、よりアレックスと研究者達の距離を身近にするため、ペットのような飼育方法で、アレックスにストレスがかからないように研究が進められました。そこで、アレックスに様々な物を教える際に、ペパーバーク博士は「モデル/ライバル」法という方法でものを教えていきました。

「モデル/ライバル」法とは「先生役」と「生徒役」、そして「アレックス」が参加する方法で、アレックスが二人のやり取りを見ることで、「正しい」ものと「間違い」をアレックスの前で行うことで、アレックスは様々な事を覚えていったのです。

例えば、生徒役が「コルク」と言えば、先生役は生徒役にコルクを与え、別の事を言えばコルクを引っ込めるという方法です。動画でも確認できますが、アレックスは非常に興味深くやり取りを見ているのがわかります。

こうしてアレックスは、「物」と「正しい行動」「間違った行動」を理解していくようになっていきましたが、アレックスは「0」の概念を理解していたように、さらに自分の中で独自の「考え」が発達していました。

「コルク」と初めての会話

1980年代、動物の研究を行うには苦労の多かった環境下でも、ペパーバーク博士や研究室の学生たちに大切にされていたアレックスは、はじめての会話となる「コルク」の要求をはじめました。この当時のアレックスはコルクで遊ぶことが大好きでした。新品のコルクを与えられたアレックスは、わずか数分でコルクを壊していき、小さなコルクにしていきました。

そしてアレックスはその壊したコルクをテーブルの上に落とし、「コルク」と話したそうです。そこでペパーバーク博士は「コルクをまだ持っているでしょう?」とアレックスに伝えたところ、アレックスは「ノー!」と叫び、再び壊したコルクを拾い、床に投げ捨てたそうです。そして、再びアレックスは「コルク」と話したそうです。

アレックスは、新しいコルクが欲しいと欲求を伝えてきた、初めての出来事でした。この時点ですでに、ペパーバーク博士と会話が成り立ってきている事に驚かされてしまいますね。別の日、アレックスは鏡に映った自分を始めて見て、頭をかしげて「それ、なに?」と研究員に聞いたそうです。研究員は「あなたよ、あなたはヨウムなのよ」と答えると、アレックスは次に「色はなに?」と聞いてきたそうです。

この問に研究員は「グレーよ、あなたはグレーのヨウムなのよ、アレックス」と伝えると、アレックスはまた何回か同じ質問を繰り返し聞いてきて、研究員はその都度、同じ答えを導き出しました。こうしてアレックスは「グレー」という色を覚えたのだそうです。アレックスはこうして様々な事を理解していき、1980年代には相手にもされていなかった研究も、2000年代になるとアレックスは世界からも注目されるヨウムとなり、TVなどにも取り上げられる研究となったのでした。

「疑問」という能力

チンパンジーやヨウムなど、他にも様々な動物の能力に関する実験や研究が行われていますが、そのほとんどは人間の真似をしたり、「サイン」を出すことで芸を行ったりというもの。例えば、犬のおすわりやイルカのショー等もそうですよね。アレックスと同じヨウムの「アインシュタイン」も、非常に天才的な能力を見せていますが、アインシュタインもまた、人間が「言葉」のサインを出すことで、サインに対しての「答え」を出すものです。(但し、記憶している数は大変なものですが)

こういった事を覚えるだけでも凄いことですが、アレックスが更に凄いと感じさせられるものには「質問」や「疑問」を持っていたことでした。前述の「グレー」を覚えたいきさつも、この疑問から生まれるものでした。

人間が「これ」は「グレー」と覚えさせるのではなく、アレックスは自らが覚えていた「グレー」という色を、鏡に映った自分の色と重ね合わせ、グレーではあるけれど何か違うと感じたのでしょう。その結果、アレックスには「疑問」が生まれて、研究員に「それ、なに?」という「質問」を行ったようです。

これは、アレックスが単に「芸」のようなものではなく、一つ一つの事を理解していたという事が伺えます。そもそも、「質問」という行動ができる事自体が凄いことなのですが、アレックスはさらに「疑問」という能力も持ち合わせていました。

アレックスとの最後の会話

2007年9月6日、アレックスとのお別れは突然やってきました。後に死因は動脈硬化に関連する事と発表されましたが、前日までは普段と変わらない生活を送っていたため、アレックスとのお別れは突然のものとなってしまったのです。50年の寿命を持つヨウムにとって、アレックスの享年31歳というのは、あまりにも早いお別れでした。

アレックスは研究のために特別に生まれてきたヨウムでもなく、特別な訓練を受けてきた鳥でもありません。アレックスは、ペットショップで売られていた普通のヨウムで、家庭で飼われるように育てられた、一般的なヨウムだったのです。

アレックスを早くに亡くしてしまったのは悲しいことですが、アレックスの存在によって、鳥や動物にも感情があり、言葉を理解し、それを伝える事ができるという事が研究結果としてだけではなく、世界中の人々にも理解されたという大きな功績をもたらしたのは言うまでもありません。今でも、アレックスの姿はyoutube等でも見られますので、興味がある方はぜひ一度見てみてはいかがでしょうか。

ペパーバーク博士とアレックスは、「You be good, see you tomorrow. I love you.(良い子でね、また明日。君を愛しているよ)」とアレックスが伝え、ペパーバーク博士が「I Love You,Too.(私も愛しているわ)」とやりとりするのが毎日のお別れの挨拶。アレックスが最後に残した言葉は、この日もいつもの通りの「You be good, see you tomorrow. I love you.」でした。

明日へと続くアレックスの功績

いかがでしたでしょうか。アレックスがいかに知能の高かったヨウムだったという事がわかりますね。残念ながらアレックスと会うことはもう出来ませんが、ペパーバーク博士が行ってきたアレックスとの研究の成果は、動物に対する理解にとどまらず、私達、人間の助けにもなっています。

それは、自閉症等の病気を抱える子どもたちに対してのセラピーに役立てられています。学習障害を持つ子どもたちへの、他の人に対する共感や考える事を身に付けるために、アレックスが行ってきた「モデル/ライバル」法を少し応用した物を、こうした子どもたちへも実践し、これまでに何百人という子どもたちをケアすることに成功してきているのです。

ペパーバーク博士とアレックスとの研究は、これからもこうした人々を救っていく事の糧となる事でしょう。「You be good, see you tomorrow. I love you.」また明日もアレックスの功績はこうして役立てられていきます。

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