「ノミ」や「ダニ」をはじめとした「寄生虫」による病気や症状は様々なものがあり、寄生虫による被害を予防するためにも、知識や予防策を知ることが大事になります。今回は猫の寄生虫のひとつ「トキソプラズマ」による症状や予防法について解説します。

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寄生虫「トキソプラズマ」とは


寄生虫の1種「トキソプラズマ」とは単細胞生物の病原体で、猫や犬、鳥、人間と、猫以外の動物にも感染する「ズーノーシス(人畜共通感染症)」としても知られる寄生虫です。
このトキソプラズマに感染することで、嘔吐や下痢といった症状があらわれますが、特に子猫や母猫、免疫力の低下している猫が感染してしまうと、非常に危険な状態に陥る場合があります。
しかし、健康体の猫であれば、必ずしもトキソプラズマが脅威ではない場合もあります。初期症状では下痢などの症状を引き起こしますが、次第に症状もおさまり、感染していたこともわからずに終息していきます。
ただし、トキソプラズマに感染することで、体内に「オーシスト」と呼ばれる卵のようなものが生殖していき、糞便に混ざり排泄されることで感染源を拡げる場合があります。

トキソプラズマの成長

トキソプラズマは、主に口から入ることで感染する「経口感染」が一般的ですが、経口感染をした後にトキソプラズマは3つの形態を経て成長していきます。
【オーシスト】
感染後に小腸へと寄生し、有性生殖して個体へと形成します。この個体が卵のようなものとなり、感染した猫の糞便に混ざって排泄されます。トキソプラズマの感染後、2〜3週間はこのオーシストを排泄するので、排泄された糞便が、他の猫や動物への感染源となる可能性が非常に高くなります。また、オーシストは糞便中であっても、数ヶ月以上は生存することができます。
【タキゾイト】
タキゾイトは、先述のオーシストの中から虫が出てきたもので、細胞内に寄生し、1つの個体から更に生殖を繰り返していく無性生殖により、急激に生殖していきます。
【シスト】
タキゾイトの数千に及ぶ集合体で、細胞組織内に球体の壁を作って寄生しながら、無性生殖によって増殖したものを、シストと呼びます。

猫が最適な宿主である理由

トキソプラズマはズーノーシスであることが知られていますが、猫以外の動物に感染はするものの、健康体である場合は、ほぼ症状は気付かない程度と言っていいでしょう。
また、犬でもまれに感染はしますが、同じく免疫力が低い場合でなければ、下痢をする程度で、表立った症状は起きないでしょう。しかし、後述しますが、いずれの動物も妊娠中である場合は要注意です。
猫にトキソプラズマ症が起きるのには、自然のサイクルが関係しています。先述のとおり、トキソプラズマは3段階に分かれたライフサイクルを送り、第1段階として、経口感染により猫に感染しオーシストが作られます。その後、猫の排泄と共にオーシストが体内から体外へと移動していきます。

オーシストから最終段階へ

第2段階では、この排泄された糞便をネズミなどが食べることで、猫からネズミへと宿主を変えていきます。その後、ネズミの体内では、オーシストから次なる形態となる「タキゾイト」から「シスト」へと成長していくのです。
最終段階となる第3段階では、この感染したネズミを猫が捕食し、ネズミの生肉を食べることで他の猫へと感染していくといったように、トキソプラズマは自然のサイクルを巧みに利用して成長を繰り返し、感染経路を広げていくのです。
こうしたサイクルで徐々に勢力を伸ばし、より多くの猫やネズミへと感染し、やがては犬や人間にも感染が広がっていくのです。犬や人間に感染する場合には、ネズミの他、猫の糞をふんでしまうなど、犬の散歩中にも感染のリスクがあるのです。

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トキソプラズマ症の症状とは

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健康体の成猫は目立った症状は起こさないものの、子猫がトキソプラズマに感染すると話は別です。
初期症状では発熱や下痢・嘔吐、血便、黄疸といった症状があらわれはじめ、悪化するにしたがい、呼吸器系の症状や神経症状なども引き起こします。子猫の場合のその多くは命を落とすことが多く、免疫力の下がっている猫もまた同様の症状となります。
また、トキソプラズマは経口感染により感染しますが、妊娠している母猫がトキソプラズマに感染している場合、母乳や胎盤内で感染して、子猫へと感染する場合もあります。人間においても、妊婦中の方に寄生してしまうことで、流産や先天性障害を持つ子供が生まれる可能性があることが報告されています。

トキソプラズマに感染するとうつ病になる?

トキソプラズマが猫の糞尿から感染経路を拡げていくというのは前述の通りですが、実はトキソプラズマが持つ恐ろしい能力が、トキソプラズマの感染を更に広げる要因となっています。
その能力とは、「脳をコントロールする」というもの。トキソプラズマはネズミへと寄生する際にタキゾイト〜シストへと形態を変えていきますが、次なる宿主へと移動するため、なんとトキソプラズマはネズミの脳をコントロールするという研究結果があります。
トキソプラズマはネズミの脳をコントロールし、わざとネズミが猫に捕食されやすくなるよう、ネズミの恐怖心や反応を鈍らせ、猫に捕食されやすくコントロールしているのです。このほか、無気力になると行った行動も見られることから、トキソプラズマに感染することで「うつ病」のような状態へとコントロールされるようになるのです。

人間もトキソプラズマに感染するとうつ病に?

このような症状は、人間に感染した場合も同じなのでしょうか。
トキソプラズマがこうして脳をコントロールできるという理由には、トキソプラズマが「白血球」を乗っ取ることができるという点で説明できるようです。通常であれば白血球は外敵を攻撃する役目を持つ細胞ですが、この白血球を乗っ取り、体内を自由に移動することができています。
そして、脳にも移動することが可能となり、脳へと寄生してコントロールを行うと考えられています。これは人間に寄生した場合にも同じことが言えるようで、確実な研究結果発表ではないものの、人間が感染したことで総合失調症を起こしやすくなると言われているのです。
研究段階とは言え、人間に感染することで妊娠中のリスクを高めるばかりか、命の危険をも脅かす寄生虫ですので、十分に気を付けなければいけません。

トキソプラズマの予防策

こうしたリスクを減らすため、猫を飼っている場合は、外に自由に出入りできるような環境で飼育しないことが一番の予防策となります。外ではどんな寄生虫が潜んでいるかわかりませんので、室内飼いを徹底するようにしましょう。
また、トキソプラズマは熱に弱いので、肉を食べさせる・食べる場合には必ず「火」を通した肉をあげるようにしましょう。
オーシストの状態では「70℃で10分間加熱」すると、死滅させることができます。一方、人の場合は猫からの感染というよりは「豚」や「羊」からの感染が最も疑われる感染経路ですので、「生肉」を食べる際は、上記の要領で火を通した肉をたべるようにしましょう。
ただし、これらの動物に関しても「家畜伝染病予防法」が定められており、トキソプラズマの感染が確認された時点で、これらの動物への対策・措置がとられるようになっていますので、スーパー等に感染された肉が並ぶという事は、ほぼ少ないといえます。

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寄生虫に感染しない・させないために


万が一トキソプラズマに感染した場合は、抗菌薬による治療が施され、下痢や他症状の治療も同時に行われるようになります。しかし、治療が遅れたり、全身的に症状が出始めている場合は、抵抗力も弱まっているために、助かる確立も非常に低いです。
寄生虫は、生活のいたる場面に潜んでいてもおかしくないものです。寄生虫による感染を未然に防ぐためにも、徹底した室内飼いや、猫や猫のトイレ、部屋を常に清潔に保つことが最善の策となります。また、忘れがちなフィラリアの予防ですが、猫を危険な目に合わせないためにも、こうした予防策はわすれずに取るようにしましょう。
このような予防策をとることで、寄生虫による被害を最小限に留めることが可能となります。手遅れになってしまう前に、出来る限りの最善策は取るようにしたいですね。

トキソプラズマ症に予防接種はある?

多くの感染症や寄生虫による被害は、事前に予防接種を受けることでリスク回避が行えますが、トキソプラズマ症に関しては予防接種がありません。そのため、トキソプラズマ症のリスクを軽減させるためには、説明のとおり、清潔な状態を常に心がけることが重要となっています。
感染経路は多岐にわたるため、感染経路を断絶させることよりも、しっかりと身の回りの予防策を怠らず、常にこうした感染症などから身を守ることが大事なのです。
確かにトキソプラズマは地味に恐ろしい寄生虫ではありますが、その予防策としては至ってシンプルであり、非常に当たり前のことを行うだけで予防が出来るということを理解しておきましょう。感染症になってから慌てるのではなく、日頃から清潔な状態を維持するようにしましょう。

トキソプラズマの感染経路を断つ

トキソプラズマはズーノーシスとなる寄生虫ではありますが、我々人間においては、通常の食生活では火を通す事は当たり前に行われていますし、うがい・手洗い、食品の冷凍(24時間以上)、野菜や果物を洗うといった行動は、普段の生活において日常化されていると思います。
危険な寄生虫ではありますが、神経質になりすぎず、「生肉」を食べない事を念頭におきながら食事をすることや、食品を扱う際には清潔な状態を維持すること、うがい・手洗いを行う事など、普段通りに清潔な生活を送っていれば、感染することは考えにくいです。
「O−157」などと同じく、しっかりと清潔な状態で生活し、トキソプラズマの感染経路をしっかりと断つことが大切です。猫の健康の為にも、我々、人間の為にも、常に清潔な生活を送るようにしましょう。

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