人間でも「想像妊娠」というものがありますが、実は犬の世界にも想像妊娠があることをご存知でしょうか。愛犬からお乳が出ていたり、そわそわと落ち着かないような様子が見られた場合には、もしかすると「偽妊娠」の症状が見られるかもしれません。

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犬の「偽妊娠」とは


いわゆる「想像妊娠」と呼ばれる、妊娠をしていないのにも関わらず、体は妊娠状態になってしまう「偽妊娠」と呼ばれる病気。人間界でも見られる病気の一つですが、この偽妊娠という病気は犬のホルモンバランスの変化によって引き起こされる病気です。

人間が発症する想像妊娠と呼ばれるものには、妊娠に対する強い思いや意識によって、想像妊娠が引き起こされますが、犬の場合にはこうした想像による妊娠ではなく、犬の体に起きる変化によって引き起こされるものなのです。

もう少し詳しく知るために、まずは犬の妊娠について学んでみましょう。

犬の妊娠について

犬の生理は「ヒート」とも呼ばれ、生後7ヶ月から1歳を迎える前後から初めてのヒートが始まります。犬の1歳は人間の16歳程となります。

「発情前期」と呼ばれるこの期間には出血が始まり、約10日間程続きます。また、この期間のメス犬の尿にはフェロモンも含まれるため、オス犬はこのフェロモンに反応してしまいます。

第2段階となる「発情期」には出血量も減り、続いて排卵が起こります。その後の4〜5日間が妊娠可能期間となり、オス犬と交尾することで妊娠します。

気をつけなければいけないのは、出血が収まったからヒートも終わったと思われがちですが、出血が終わった後が妊娠するタイミングに入るため、オス犬との接触には注意が必要となります。

要注意な妊娠後期

最後となる第3段階の「発情後期」。排卵を経てから4〜5日経つと、発情期は終わりを迎えて約60日間ほど続く発情後期に移行します。このタイミングに入るとメス犬は徐々に通常の体に戻っていき、それまでの興奮も徐々に落ち着いてくるでしょう。

通常であればメス犬は上記のサイクルで発情を迎え、6ヶ月サイクルを目安にヒートを繰り返します。この6ヶ月間のうち約4ヶ月間は妊娠後期の期間となります。

ヒートもこうして一段落迎えるかと思いきや、「偽妊娠」はこのサイクルの中の、妊娠後期が要注意のタイミングなのです。妊娠後期は「無発情期」とも呼ばれる段階ですが、この期間メス犬の体には、黄体ホルモンと呼ばれるホルモンの分泌が続きます。

発情後期に起きる「偽妊娠」


この黄体ホルモンは、受精卵が着床しやすくするためのホルモンですが、偽妊娠は黄体ホルモンが出続けてしまうことで引き起こされます。

本来であれば、妊娠しなかった場合には黄体ホルモンの分泌も止まるはずですが、黄体ホルモンの分泌量も妊娠してないからといってピタッと止まるわけでは無いのです。

犬の体の状態に合わせて、黄体ホルモンの分泌量も徐々に減っていくものですので、発情の行動が収まってきたからと言って油断はできません。

このようにメス犬の体は、妊娠しなかった場合には黄体ホルモンの減少とともに、通常に戻っていくのですが、黄体ホルモンが分泌されている間には、メス犬の体もまだまだ妊娠を受け入れる態勢のままと言ってよいのです。

個体によって食欲の違いも

黄体ホルモンが出続けてしまうと、メス犬の体は妊娠していると勘違いを起こしてしまい、その結果、偽妊娠を引き起こしてしまうのです。

人間は想像で妊娠をしてしまう「想像妊娠」というケースがありますが、犬の場合には想像妊娠は存在しません。犬の場合は想像ではなく、前述の通りホルモンによって引き起こされるために、偽妊娠と呼ばれるわけです。

偽妊娠の症状に関してもつわりや母乳が出てきたりと言った、妊娠特有の症状が見られるようになります。個体によって食欲旺盛になる場合もあれば、食欲不振になる個体もいますが、偽妊娠の症状はこれだけではなく、しっかりとお腹も膨らんできますので、飼い主さんもすぐに気がつくことが出来るでしょう。

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偽妊娠の症状と治療について

メス犬が偽妊娠を引き起こすと、乳腺が張ってきたり、お乳が出てきたりと言った症状が見られるようになります。また、本能的に子犬を産む準備をしようと、落ち着ける場所で巣作りを行ったり、ぬいぐるみ等を相手にして、子育てを行うなどの行動が見られる場合もあります。

偽妊娠の治療に関しては、特に何もしなくとも通常の状態に戻っていくため、特に治療を施さないといけないと言うわけではありません。しかし、毎回のヒートの度に偽妊娠を繰り返すようであれば注意が必要です。

ゆくゆくは子宮蓄膿症や乳腺腫瘍といった病気を引き起こす可能性もあるからです。そのため、あまりにも偽妊娠を繰り返すようであれば、一度病院へ行って、診察を行ってみたほうが良いでしょう。

乳腺腫瘍とは


乳腺腫瘍はメス犬特有の病気の一つであり、偽妊娠にかかわらずメス犬は気をつけていなければならない病気です。

乳腺腫瘍とは犬の乳首に腫瘍ができてしまう病気で、この腫瘍が悪性である場合には癌ということになります。この乳腺腫瘍を予防するためには避妊手術が最も効果的な予防策となります。

また、偽妊娠の場合には「乳腺炎」にも注意が必要です。

乳腺炎は偽妊娠によって母乳が出てきてしまい、それを気にすることで犬が舐めてしまい、炎症を起こしてしまう病気です。乳腺炎になってしまったら、蒸れない程度に患部を舐めることが出来ない状態にしなければなりません。

洋服を着せることでもある程度の効果がありますが、蒸れてしまわないように注意する他、擦れてしまわないような配慮も必要となります。

攻撃的な行動を取る場合も

偽妊娠を引き起こした際には前述のような行動が見られる事もありますが、場合によっては攻撃的になったり、行動的でなくなるといった様子が見られる場合もあります。

強いストレスもかかってきますので、犬の精神状態も通常ではなくなってしまいます。基本的には妊娠中の状態と同じであると考えても良いでしょう。そのため、中にはとにかく落ち着きがなくなってしまったり、分離不安のような状態を引き起こしてしまう場合もあります。

この場合には、動物病院に相談の上、抗不安薬や不妊治療薬、精神安定剤等を処方してもらう事も考えましょう。偽妊娠はそのままでも症状を抑えることは出来ますが、あまりにも行動が大変である場合には、何かしらの処置を施したほうが良いかもしれません。

予防は避妊手術を行うのみ

偽妊娠は病気ではありませんので、偽妊娠を予め「予防」する事はできません。偽妊娠を引き起こさないための方法としては、妊娠する事を避ける他ありません。

そのため、偽妊娠を予防するためには避妊手術を行うしかないのです。偽妊娠を繰り返してしまうことに加え、将来的に出産させる予定がないのであれば、前述に挙げたような病気のリスクを減らすためにも、避妊手術を行ったほうが良い場合もあるでしょう。

ただし、避妊手術を行うタイミングや年齢、また避妊手術を行う際には麻酔を打つ必要もありますので、万が一という場合のリスクを理解しておく必要もあります。特に高齢になると手術自体も難しいので、偽妊娠によるリスクよりも手術のリスクの方が高くなってしまいます。

まとめ

こうした体のメカニズムによって引き起こされる、犬の偽妊娠。人間の想像妊娠とはまた別の病気となりますが、症状や治療に際して危険が及ばないからといって、油断をするのは危険です。あまりにも偽妊娠を繰り返す場合には、すぐに診察を行い、病院の先生とよく相談の上、偽妊娠を予防するかの判断を早めに行う必要があります。

偽妊娠は「子宮蓄膿症」や「乳腺腫瘍」を発症するサインと捉え、命に関わる病気を引き起こす前に、予め対策を講じるようにしてみてはいかがでしょうか。これらの病気はメス犬を苦しめる病気の中でも、特に多い病気です。こうした機会に、一度真剣に避妊に対して考えてみてみましょう。

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