盲導犬や警察犬、牧羊犬や狩猟犬など、犬は私達の仕事や生活に大きく貢献をしてくれる存在でもあり、頼もしいパートナーでもあります。今回は、人の100万倍もの嗅覚を持つ犬だからこそ、ガンの早期発見に役立つ「ガン探知犬」について考えてみましょう。

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ガン探知犬とは

死亡率が高いと人々に怖れられている「ガン」ですが、医学が進んだ現在では、ガンを早期発見することで、治療できる確立が格段に上がるということが知られています。そんな中、ガンを早期に見つけるために、世界的に注目が集まっているのが「ガン探知犬」です。

「ガン探知犬」とは、犬が本来持つ特別な嗅覚を利用して、ガンが発するにおいを嗅ぎ分けることで、ガンの早期発見に繋げることを目的とした犬のことを言います。つまり、ガン探知犬は、ガン患者の吐く息や尿のにおいを嗅ぐことで、ガンかどうかが分かるのです。

まだ研究段階ではありますが、卵巣ガンや子宮ガンなどの婦人科系のガンに加えて、肺ガンや胃ガンや乳ガンのような様々なガンに関する研究が行われてきましたが、ガン探知犬は、全てのガンに共通して言えることは、ガン患者の体内で生成される何らかの「におい物質」を、犬が嗅ぎ分けることができるということが分かっています。

未だ、この何らかの「におい物質」の正体の特定には至っておりませんが、これを特定することができれば、近い将来、ガン患者特有のにおいを識別する分析装置を開発することに役立つでしょう。

ガンを探知した初めての症例

初めてガン探知犬に関する報告がされたのは、1989年にロンドンの皮膚科医が発端でした。その報告では、ある女性が、足のすねの上部に小さな隆起性のあるイボを見付けたので、近く病院を受診しましたが、特に問題はないと言われたようです。

しかし、その女性が飼育していた愛犬のコリー犬は、そのイボに対して執拗ににおいを嗅いだり、ズボンなどを履いてイボを隠しても、しきりにまとわりついてきたり、最終的には、イボを噛みちぎろうとしたこともあったそうです。不思議に思った女性は、別の病院の皮膚科の専門医を受診したところ、皮膚ガンの悪性メラノーマであったことが分かりました。幸い、早期発見であったため、転移などもなく切除することで治癒しました。まさに、愛犬のお陰で一命を取り留めたのです。

犬がガンを見つけられる理由

犬によってガンを探知されたのは今回のことだけでなく、実は世界中で様々な報告がされています。それでは、ガンを探知する犬たちは、ガンの何に対して反応しているのでしょうか。

これまでに考えられていることは、ガン患者の体内で生成されるにおい物質である、揮発性有機物質(VOCs=volatile organic compounds)に反応しているのではないかと言われています。犬の嗅覚は人の100万倍以上もありますが、人間でも分からないVOCsが犬には嗅ぎ分けることができると考えられていますが、まだ推定の段階で特定には至っていません。

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ガン探知犬のマリーン

現在日本医科大学が取り組んでいるガン探知犬プロジェクトでは、2002年生まれのメスの黒のラブラドール・レトリバー、「マリーン」の存在は欠かせません。マリーンは、人のガンの有無を判定する特殊能力を持ったガン探知犬で、2005年から千葉県にあるガン探知犬育成センターの「セントシュガージャパン」で訓練していました。

マリーンの嗅覚は、他の犬と比べてもずば抜けて高かったようで、2008年から2009年に行われた研究では、とても優秀な成績を収めています。例えば、マリーンに50例以上ある子宮ガン患者の尿サンプルを嗅がせたところ、100%の確立で全てガンであることを嗅ぎ当てました。この中には、進行した子宮ガン患者以外にも、子宮ガンの初期の患者も含まれていたようです。また、この他にも、卵巣ガンに関しても全てを嗅ぎ当てています。

乳ガンの研究では、ステージ0からステージ4の乳ガン患者の尿サンプル50例以上に関して、同じように100%の確立で嗅ぎ当てました。一方で、多くの健康な人の尿のサンプルに関しては、全てにおいてガンとは判断しなかったようです。また、大腸ガンでは、大腸ガン患者の呼気からは91.6%、便からは97.3%の確立でガンの有無を当てたと言われています。

類い稀な能力を持つマリーン

マリーンの実験手法は、「ダブルブラインドテスト(二重盲検)」と呼ばれる検査方法で行われており、これは、テストを受ける方も行う方も、答えを知らされない状態で検査を行うことを言います。この手法を取り入れることによって、テストを行う方の挙動などが、マリーンに伝わり、実験の判断に影響しないようにするためです。

このことからも分かるように、マリーンのガンを探知する実験においては、決して当てずっぽうでも、テストを行う側の挙動などによる勘でもなく、純粋にガン患者のにおいによってガンが識別されたということです。ちなみに、同じ手法で行われた海外でのガン探知の実験では、成功率41%という結果に終わっています。マリーンは他の犬と比べても、類い稀な能力を持っていることが分かるでしょう。

しかし、マリーンも生き物である以上、寿命もありますし、老化によって嗅覚が鈍るということもあります。マリーンの子供を産ませようにも、若くして子宮の摘出手術を行っているので出産ができません。そこで行われたのが、この能力を後世に活かすために、マリーンのクローンが作られたのです。2008年に韓国のソウル大学とバイオ関連企業が、マリーンの皮膚細胞から4頭のクローンを誕生させました。この時に生まれたクローン1頭に対して、5200万円の値段が付けられたようです。

今後は

先述したように、ガン探知犬はまだ研究段階にあります。ガン探知犬は、進行状態にあるガン患者だけでなく、まだ自覚がない早期のガンでも嗅ぎ分けられる能力があります。今後はその能力を最大限に有効利用するためにも、犬が嗅ぎ分けているにおい物質を特定して、ガンの早期発見ができるガン探知犬の育成が必要でしょう。

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