「ズーノーシス(人畜共通感染症)」という言葉をご存知でしょうか。ズーノーシスとは、猫に限らず、犬やうさぎ、鳥といったように「ペット」として飼われる動物はもちろん、人間にも感染する感染症の総称です。今回はズーノーシスについて解説していきます。
「検疫」も100%では無いということ
昨今のペットブームによって、犬や猫以外にも色々なペットが海を渡ってやってきています。もちろん、国内に入る前には、非常に厳重な検疫が設けられていますが、検疫をくぐり抜け、密輸などによって狂犬病を始めとするウイルスが国内へと運ばれる可能性も、ゼロではありません。
現代社会では、こうした様々な動物をペットとして飼育しているシーンが多いですが、犬の散歩中や、猫が外を徘徊中、何らかの理由で感染し、飼い主にも感染が拡がる恐れがあるもので、感染症の種類も様々な病気が存在し、日本国内では約80種もの病気が確認されています。中には犬には症状が無くとも、人には重篤な症状がある場合や、その逆の場合もあるなど、病気によって症状も様々です。
小腸に寄生する「回虫症」
「回虫」という寄生虫が寄生することで発症する「回虫症」。比較的、猫に多く見られる寄生虫のひとつでもあり、症状の差はあれど、犬や猫、人間にも寄生する寄生虫です。
この回虫は「ミミズ」に似た寄生虫で、成虫は10cm前後の大きさをしています。主に口から感染する「経口感染」によって感染しますが、「卵」の状態の回虫を毛づくろいの時など、何らかの理由によって接種してしまうことで感染してしまいます。
回虫症になると小腸へと寄生して、猫が食べた食物の栄養を横取りするため、ちょっとした下痢を起こし、食欲は旺盛でも太らない・痩せてゆくといった症状があらわれます。また、毛艶などにも影響が出る場合もあります。また、全く症状が現れない場合もあるでしょう。
小腸の中に寄生する回虫は、子猫の食べた栄養も横取りしていきます。このため、成長期なのになかなか体重が増えないなど、発育不良に陥ってしまいます。その他にも、下痢や嘔吐、咳、貧血といったように様々な症状を引き起こし、さらに症状が進行していくと、お腹が膨れてくるといった症状も出はじめ、咳や嘔吐とともに回虫が吐き出されることもあるでしょう。こうして抵抗力も低下してゆき、回虫症が要因となって他にも病気を引き起こす場合もあり、場合によっては命の危険がさらされる事態にもなりかねません。
回虫症の治療は、駆虫薬の投与による治療に合わせて、下痢などの他症状に対しての対症療法が施されます。基本的にはこうした治療で済みますが、自宅内に犬や猫を他にも飼育している場合は、回虫症の感染を食い止めるためにも、念のため回虫症の検査を行うことが望ましいです。
「クリプトコッカス症」について
愛猫がくしゃみや鼻水、特に粘着するような鼻水を垂らしていないでしょうか。こうした症状が見られる場合は、「クリプトコッカス」と呼ばれるカビが原因となって引き起こされる「クリプトコッカス症」に感染していることを疑ったほうが良いかもしれません。このクリプトコッカス症は猫に多く見られる感染症ですが、猫に限らず犬や人にも感染する恐れがあります。
その特徴的な症状には、前述したくしゃみや鼻水、元気の減退といった症状のほかにも、血の混じった鼻水や鼻に潰瘍ができる場合もあります。症状が深刻化すると、肺炎や呼吸困難といった症状になり、さらに神経系へも障害を与えるようになります。
「クリプトコッカス症」の症状と対策
クリプトコッカス症の症状は、肺炎を引き起こしたり、呼吸器系に障害を与えるほか、眼の中枢神経に感染することで失明を引き起こしたり、痙攣や麻痺といった重篤な症状も引き起こしてしまいます。健康体であれば特に症状が出ることは無いですが、免疫機能が低下している場合には、特に注意が必要な病気です。
猫では猫エイズ、人間であればHIVといったような、免疫機能が下がるような病気をしていなければ、クリプトコッカス症は命に関わる病気となる確率も低いため、そこまで神経質になる必要もありませんが、万が一のことを考えて、猫が家の中と外を自由に行き来出来るような飼育方法はやめたほうが良いでしょう。
常に健康な体を維持できていれば心配はありませんが、こうした鼻水やくしゃみが目立って多い場合には注意が必要です。体が健康であっても、実は目に見えない部分が弱っている場合も考えられますので、念のため病院に診察に行くようにしましょう。
エキノコックスとは
北海道では馴染みの深い「エキノコックス」という寄生虫が寄生したことで引き起こされる「エキノコックス症(多包虫症)」という病気。ズーノーシス(人畜共通感染症)であることでも知られ、人間がエキノコックス症を発症することで、命に関わる重篤な症状を引き起こしてしまう病気として知られています。
ただし、ズーノーシスとはいえ、実は猫がエキノコックス症になっても、まれに下痢などを起こすだけで命の危険はありません。ところが、愛する飼猫が「宿主」となり、人間がエキノコックス症を発症すると、重い肝機能障害を患うことになり、私達の命を危険にさらしてしまう可能性があるため、非常に注意が必要な寄生虫でもあります。エキノコックス症を放置していると、90%以上が死に至るといった数字もでているほど、エキノコックス症は危険な寄生虫なのです。
自然界に潜むエキノコックスの脅威
自然界ではキツネがネズミなどを捕食します。この捕食したネズミが「エキノコックス」に寄生されていることで、捕食したキツネがエキノコックスの宿主となります。
ではなぜ、この捕食されたネズミはエキノコックスに感染しているのでしょうか。これは、キツネの糞便から排泄されたエキノコックスの「虫卵」が、自然環境下に潜んでいるからです。
このキツネと同じく宿主となるのが、犬や猫です。エキノコックスに寄生されるのは、ネズミを捕食した場合やキツネの糞便だけではなく、自然環境下での寄生も十分にありえるので、猫に関しては外へ自由に行き来できる環境であれば、エキノコックスに感染するリスクも高くなります。
北海道では、エキノコックスの感染地域は全道に及びます。また、近年では道外でも感染が確認されています。北海道においては、札幌市内においてもキツネが確認されることもあり、油断はできない状況です。はなし飼いをしている場合は即刻、やめるようにしましょう。
愛する飼猫が感染することで、自らが死に追いやられる可能性も否定できないエキノコックス症。外遊びをした時などは、十分に注意して遊ぶようにし、飼育環境も自宅内のみで飼うような環境にしましょう。
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人畜共通感染症でも、最も恐ろしい「狂犬病」
「狂犬病」という病名を、犬や猫を飼っていない方でも、一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。数あるズーノーシスの中でも、最も恐ろしい病気として知られる狂犬病ですが、その死亡率と症状も悲惨なものがあります。
また、現代の医学においても、狂犬病を発症した際に有効とされる治療法は見つかっておらず、致死率も99.9%と言われています。これは、犬や猫にとっても、人にとっても同じ確立で、すべての哺乳類に感染リスクがあります。
狂犬病は、狂犬病に感染している動物に咬まれる、もしくはひっかかれることで、ウイルスが体内へと侵入し、感染していきます。現に、2011年のアメリカで、少女が狂犬病に感染している猫にひっかかれ、狂犬病を発症した例が報告されています。
狂犬病の症状と原因
狂犬病に感染してからは、ウイルスは体内に潜伏するのですが、犬が2週間〜2ヶ月程度なのに対し、猫の場合2〜3週間程度と言われています。ちなみに、人間の場合は1〜3ヶ月程のようです。そして、ウイルスの潜伏後、狂犬病を発症すると、それぞれ症状の出方が異なる2つのタイプに分けられます。しかし、いずれのタイプにしろ、ほぼ100%の確率で命を落とす結果となるのです。
北海道においては、狂犬病の流行地で知られるロシアからの船に同乗していた犬が、北海道に寄港した際に、不正に上陸したことも確認されています。狂犬病感染の話はでておりませんが、北海道にはたくさんの野生のキツネもいますので、感染し始めると大変な事にななりかねません。
現在、日本における犬の狂犬病予防接種率は40%台と言われており、WHOが発表している、流行を防ぐために必要と言われる接種率70%台を大きく下回っている状況です。こうした状況や、ペットブームや不法上陸などで狂犬病が蔓延していくと、ペットはおろか、人間も相当数の方が犠牲になることでしょう。このように、日本国内においても、いつ狂犬病は発生してもおかしくない状況ということを知っておきましょう。
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