「心室中隔欠損症」とは、心臓の右心室と左心室にある壁に穴が開いているという先天的な心臓の病気です。今回は、あなたの愛猫も他人事ではない、「心室中隔欠損症」について、症状や治療法、予防や対策などを調べてみましょう。

スポンサーリンク

心室中隔欠損症とは


「心室中隔欠損症」について理解する前に、まずは心臓の作りについて理解する必要があるでしょう。心臓には4つの部屋があり、上の2つが「右心房」と「左心房」、下の2つが「右心室」と「左心室」と呼ばれる部屋があり、それぞれが重要な役割を果たしています。

心室中隔欠損症とは、この心臓の「右心室」と「左心室」にある壁に穴が開いてしまっている状態の病気で、生まれつき持った先天的な心臓の奇形による病気です。

心室中隔欠損症は、心臓の病気の中でも最も発症率が高く、心臓の他、肺などにも悪影響を及ぼすことがあるため、しっかりと病気について理解し、治療や症状の予防に務める必要があるでしょう。

では、心室中隔欠損症の症状や予防、対策などを具体的に解説していきましょう。

心室中隔欠損症の原因

心室中隔欠損症の原因は前述の通り、心臓の右心室と左心室の壁に穴が空いている病気ですが、この壁は「心室中隔」と呼ばれています。

主な原因は先天的なものですが、心室中隔と呼ばれる壁が十分に発達していないことが原因であり、欠損孔(穴)が開いたままになっているという状態です。心室中隔は、通常は胎児期や出生後すぐは穴が開いている状態になっていますが、成長するにしたがって壁ができて穴を塞ぎます。

しかし、何らかが原因によって、壁が十分に発達しないまま成長してしまうと、心臓や肺に負担をかけて、様々な症状を引き起こしてしまいます。

生まれつき持った疾患であるため予防策は存在しませんが、穴が僅かである場合にはなんの問題もなく生活を送ることができます。心室中隔欠損症はこの穴が大きい場合に引き起こされる病気なのです。

血液の流れと心臓の働き

心臓は前述の通り右心房・左心房・右心室・左心室と4つの部屋に分けられていますが、具体的な心臓の動きと血液の流れとなるのが、

右心房→右心室→肺動脈→肺→左心房→左心室→大動脈→全身へ

という流れになります。こうして血液は大動脈から全身へと流れているわけですが、心室中隔欠損症の場合には、

右心房→右心室→肺動脈→肺→左心房→左心室→再び右心室へ

と、欠損孔が右心室、及び左心室に存在するため、一部の血液が左心室から大動脈へと流れず、右心室へと逆戻りを繰り返している事になってしまいます。

この状態を繰り返すために、所々で血液の送り出す量が一定ではなくなり、多量になってしまうことで圧力が生じてしまうわけなのです。

心室中隔欠損症の症状

心室中隔欠損症の症状は、生後半年前くらいで症状が出始めますが、乾いた咳や、走ったりなどの運動後に軽い呼吸困難、疲れやすくなるというような症状が現れます。

悪化すると、元気消失、食欲低下、発達障害、呼吸困難から、舌の色が青紫色になるチアノーゼという症状が出てきます。また、右心室から左心室へ流れるはずの血液が逆流して、左心室から右心室に流れ込むようになるため、肺に大きな負担がかかり、肺水腫を引き起こしたり、心不全で命を落とすこともあります。

そして、心室中隔の穴が小さい場合は、はっきりとした症状がなく、特に治療の必要はありませんが、経過観察は必要になります。場合によっては症状を表すこと無く、一生を過ごすことも可能です。

チアノーゼとは


チアノーゼとは、血液中の酸素が極端に不足することで、猫の舌や唇が青くなったり、青紫色になる症状を言います。
原因は、心臓に送り出す血液の量が減少したり、大ケガをして大量出血をしたり、熱中症、低体温症、中毒、異物を飲み込んだなどの理由からチアノーゼを発症します。

猫がチアノーゼになって、こうした症状が出始めたら、呼吸器系や循環器系の病気を患っているということが考えられるため、かなり危険な状態だと言えるでしょう。

肺水腫とは

肺は本来、血液中へと酸素を送り、また、二酸化炭素を排出させる役割を果たしています。この酸素と二酸化炭素を交換する働きをしているのが、肺の中にある「肺胞」と呼ばれる部分ですが、肺水腫はこの肺胞などに水が溜まってしまい、本来持つ肺の機能が果たせなくなってしまうのです。

肺水腫が引き起こされると、咳が出てきたり、息が荒くなったりと言った症状が現れ始めます。ゼーゼーとした息をしたり、常に呼吸をすることが苦しそうになり、こうした状態が酷くなると、呼吸困難などの症状も見られます。

さらには、酸欠状態になっていくため、口腔内にチアノーゼの症状が見られるようになったり、泡状の鼻水が出てきたりもします。吐き気をもよおしたり、ヨダレの量も増えてくるでしょう。

こうして肺が正常に働かなくなってしまい、結果として命を落としてしまう結果を引き起こしてしまうため、肺水腫は、早期に発見・治療を行わければ、最悪の事態にもなりかねない結果を招いてしまいます。

スポンサードリンク

心不全とは

心臓は、体に必要な栄養分や酸素を含んだ血液を全身へ送るポンプのような役割を果たしますが、心臓に障害を抱えたり、老化やストレスなど、何らかが原因で心臓が正常に機能しなくなると、全身に血液を送り込むことができなくなり、体のあらゆる部分で、様々な症状を引き起こすようになることを「心不全」と言います。

心不全の症状は、疲れやすくなる、呼吸が乱れる、寝ている時間が増えるなどから始まり、尿の量が減ったり、食欲の低下、肺に水が溜まる、運動をしなくなるというような症状が現れます。

さらに悪化すると、動くことを嫌がったり、呼吸困難やチアノーゼを引き起こし、失神することがあります。こうなると、心臓はいつ止まってもおかしくない状態になります。

「心房中隔欠損症」も

心室中隔欠損症は心臓の「心室」の壁に穴が空いてしまう、もしくは穴が閉じてしまわないことで起きる疾患ですが、同じく心臓の「心房」にも「心房中隔欠損症」と呼ばれる先天的な疾患が存在します。

名称が非常に似ていますが、心室中隔欠損症と同じように心房の壁に穴が空いてしまい、血液が巡回してしまう症状は同じく、心房中隔欠損症も心房中隔欠損症と同じように心不全などを引き起こしてしまうリスクを高める疾患となっています。

いずれも初期症状は軽い咳で、非常に見つけにくい疾患という点でも同じですが、その原因も成長段階で壁の穴が閉じなかったことで引き起こされる疾患です。両疾患ともに素人が判断できるものではありませんので、思い当たるような初期症状が見られる場合には、念の為動物病院で検査を行うようにしましょう。

心室中隔欠損症の3つの種類

心室中隔欠損症は心室中隔の穴の場所によって3つの種類に分けられます。

一つは「漏斗部欠損」と呼ばれ、肺動脈弁の近くに穴が空いてしまっている場合で、3種類の中でも最も心臓の中心部に近い場所の穴となります。次に近いのが「模様部欠損」と呼ばれ、壁となる心室中隔の最も筋肉が薄い部分に穴が空いている状態です。

3つめが「筋性部欠損」と呼ばれ、心室中隔の下部に穴が空いている状態で、心室中隔の中で筋肉の厚みがある部分に穴が空いています。猫に多く見られる心室中隔欠損症は、この中の模様部欠損が多いとも言われています。

飼い主さんがこれらを判断することは出来ませんので、症状が見られた場合にはすぐに検査を行い、獣医師の説明をしっかりと聞いておくことが大切です。

心室中隔欠損症の治療について


心室中隔欠損症の治療は外科治療と内科治療が存在します。基本的には中隔欠損にある穴を塞がなくては解決になりませんので、外科手術が中心となりますが、状態によっては内科治療になる場合もあるでしょう。

【外科的治療】
人工的に心室中隔に壁を作り、欠損孔を塞ぐ手術を行います。早期発見によって、早期治療で手術を行えば、健康な猫と変わらない寿命を全うする可能性が高くなります。また、ごく稀に自然に欠損孔が閉鎖することもありますが、基本的に自然治癒することはありませんので、外科手術を行うことが最も有効的な方法になります。

【内科的治療】
何らかが原因で外科手術ができない場合は、薬を使って病気の進行を遅らせたり、症状を緩和することができます。また、すでに心不全を引き起こしている場合も、外科的治療が難しくなるため、血管拡張剤や利尿剤を使って症状を落ち着かせます。

心室中隔欠損症の予防と対策

心室中隔欠損症を予防することは、先天的な疾患であるために不可能となります。そのため、最も大事なことは心室中隔欠損症についてしっかりと理解を深め、出来るだけ早く初期症状に気が付くようにするということです。

治療を行えば十分に処置が可能な疾患ですので、悪化してしまう前に早期に治療を受け、一刻も早くリスクを回避することが心室中隔欠損症の予防・対策となります。

一番怖いのは心室中隔欠損症ではなく、心室中隔欠損症から併発される病気ですので、早期発見・早期治療が非常に大切なポイントとなります。見つけにくい初期症状に気が付くためには、飼い主さんが心室中隔欠損症の知識をある程度持ち、どのような症状が見られたら気をつけるべきかを把握しておくことが大切となるでしょう。

まとめ

心室中隔の穴が小さい場合や、外科手術を行わない場合は、心臓に負担がかかるような激しい運動は避けましょう。また、肥満になると心臓に負担がかかりますので、塩分の低い食事を与えるなど、食事管理にも気を付ける必要があります。

心室中隔欠損症は先天性の病気なので、予防することができません。飼い主さんの細やかな健康チェックが、愛猫の早期発見・早期治療に繋がります。

愛猫が、生後半年くらいの成長期の割に成長が遅い、暴れた後に疲れやすかったり、呼吸困難を引き起こしているなどの症状が現れたら、一度獣医さんに診察してもらうことをお勧めします。

スポンサーリンク